日本人が知らない日本の芸術。舞踏をニューヨークで観てみた。

ダンスの本場、ニューヨーク。ここでは、ブロードウェイミュージカルのシアターダンスはもちろん、モダンダンス、コンテンポラリーダンス、バレエ、タップダンス、ヒップホップなど、様々なジャンルのダンサーたちがしのぎを削っている。そんな中、日本人の土方巽(ひじかた たつみ)が始めた、舞踏 (Butoh)という踊りがニューヨークで広まってきている。

観客無視の前衛的ダンス…!? 舞踏(暗黒舞踏)とは

(写真:flickr)

ダンスに詳しい方でなければ、舞踏というジャンルの踊りが存在することすら知らない人も多いかと思う。それもそのはず、日本の前衛舞踊と言われるこの舞踏はある意味、人に”見せる”ためのダンスではないのだ。

例えば、ブロードウェイのショーダンスは、ミュージカルの中で観客を存分に楽しませ、物語や場面を伝えることが必要だ。そのため、ダンサーたちは華やかな衣装と満面の笑顔で観客を楽しませ、表情の変化でキャラクターの感情を表現する。また、バレエの場合は、厳しい訓練によって鍛えられた”正しい型”で踊れるダンサーたちが、回転技や跳躍、バランス技などのテクニックを駆使し、さらに表現力や感情表現が求められる世界。

このように、ニューヨークで盛んなダンスは、観客に楽しんでもらおう、観客に何か伝えよう、という、人に見せて感動してもらうための工夫をするのが一般的。

しかし、舞踏のダンサーたちにとって、おそらくそのような見た目の意識は重要ではない。彼らは体の内面に意識に集中し、その体の細胞一つ一つを感じるままに動いているように見える…と言えばいいだろうか。まるで、誰もいない部屋で独り、気の向くままに体を観察しながら動いている人間を眺めている気分だ。

言葉で説明するだけではイメージしづらいと思うので、参考になりそうな舞踏の動画をいくつかどうぞ。

 

観客と踊り手の”集中力対決”–「Elsewhere」鑑賞

私が今回観に行ってきたのは、「Elsewhere」と題された舞踏のパフォーマンス。

Elsewhere

場所:Gibney 280 Broadway Vangeline Theater

ダンサー:Vangeline

作曲家:Yuka C. Honda

そこはとても不思議な空間だった。出だしは真っ暗な舞台上の中央に、黒いドレスに身を包んだVangelineさんが直立で立っていて、背景の黒幕の真ん中には夕日のようなオレンジ色の円がくりぬかれて光っている。

Vangelineさんのシルエットが浮かび上がっているのを、Yukaさんの地面が低くゴーと鳴るような音楽とともに眺めること数分。この先もう動かないんじゃないかと思うくらい、全く、動かない。微動だにしないのだ。

でも気付いた時には、Vangelineさんがいつの間にか斜めを向いている。方向を変えるのがゆっくり過ぎて、目を凝らして見ていないと、彼女が向きを変えたことにも気付けない。その後、彼女はまた数分かけてゆっくりと地面を指差したり、かと思えば急にカクカクッと一瞬シャープな動きを見せたり。急に舞台上を静かに3周走ったり、突然発作のように暴れ出したり、変顔の練習のように(?)顔面をくねらせたり。言ってしまえば、意味不明。笑

これは明らかに、観客を楽しませよう!なんて考えているようなダンスじゃない。それでも、目が離せない。永遠に動かないのではと思ってしまうような彼女の体がいつ動き出すかとか、散々暴れたあとどうする気なのかとか、一瞬たりとも見逃せない、そんな緊張感が客席全体に漂っていた。

言ってみれば、ダンサーと観客とが、”集中力対決” をしているような感じだ。

観客は、どれだけ彼女の動きを見逃さず捉えられるか。ダンサーは、観客の前で65分間、一瞬たりとも体の内面への集中力を切らさずに踊りきれるかどうか。なんとも言えない緊張感。

まとめ:公演を通して感じた日本の芸術観

(写真:GIBNEY)

公演の内容に関しての感想よりも私が強く感じたことは、いかに多くの日本人が芸術に馴染みがないかということ。公演が終わったあと、たまたま来ていたあるスペイン出身のダンサーさんと話をした。彼女は、舞踏をほとんどの日本人が知らないことに大変驚き、「どうして?本当にこれを知らないの?」尋ねてきたくらいだった。

私は、多くの日本人が芸術にお金と時間をかけることを「もったいない」と思っているように見える。極端に言えば、ダンスを見ることを時間とお金の無駄だと感じているような気さえする。実際、日本人の多くは働きづめで忙しく、休日に出かけていく気力もないほど疲れているのだろう。

しかし、それでいいのだろうか。たまには落ち着いてダンスを見る時間もないほど、余裕のない人ばかりの社会なんてこの上なく堅苦しい。海外で注目されるような面白い日本の芸術を、日本人が誰も知らないなんて、それこそもったいない。

勤勉だとよく言われる日本人だが、時に芸術を楽しめるような心の余裕を、ぜひみなさんにも持ってもらいたい。

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Kanami Kusajima

草島 叶実 (くさじま かなみ)  ニューヨークのPurchase Collegeでダンスを学ぶ大学生。ダンスやアートがもつ、言葉を超えたコミュニケーションの魅力を追求している。即興ダンスや、様々なジャンルのアーティストとのコラボが大好き。将来ニューヨークでプロのダンサーになるため、今できることは何でもするスタンス。